教育オピニオン
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このままの校内研究をしていてよいのか?
山口県下関市立豊浦小学校三井 竜彦
2014/2/15 掲載

1 校内研究のテーマが崇高過ぎる?

 校内研究のテーマを調べていて、「これが校内研究で育てられるのか?」というようなワードを見つけた。100校以上の研究テーマの内の15%の中に謳ってある単語である。それは「心」である。1例を示すと「心豊かに生きる児童の育成」(筆者が少し変更した)。道徳の研究指定校かと思って内容を見てみると、研究教科は社会科と生活科である。つながらなくもないけれど、社会科の学習で心豊かに生きられるようにするというのは、少し無理があるのではないだろうか。これは極端な例かもしれないが、このように学校の研究テーマは、崇高な(過ぎる?)理念を追い求めるものが多い。
 勤務校の研究テーマは「コミュニケーション能力を伸ばす学習指導の工夫」である。テーマに対する仮説を立て、1人1回研究授業をし、研究協議をする。そして、年度末に成果と課題を研究紀要などでまとめるというものである。ほとんどの学校もだいたいこのようなものではないだろうか。そのような研究を経て得られた成果は「何だかコミュニケーション能力が身についたような気がする」程度である。
 学力について、学校教育法第30条2項では、@基礎的な知識及び技能 Aこれらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力 B主体的に学習に取り組む態度、と述べられている。
 この@とAの順番には意味がある。@の基礎的な知識及び技能が十分に身についてからではないと、Aの力は活用できないのである。

2 校内研修のシステムはこれでよいのか?

 それでは、我々教員はどうか。全教員に@の基礎的な教育知識及び技能は十分に身についているのか。または身につけるためのシステムが学校内にあるのか。全員に身についていると言えないまま、校内研究でAの応用力ばかり追い求めてはいないか。地図も読めない者同士でオリエンテーリングをして迷子になってはいないだろうか。
 団塊の世代が学校から大量卒業してベテラン教員が大幅に減っている。そして、その分新規採用の教員が大量投入されている。今までは若手教員一人に何人ものベテラン教員が、授業技術なり、学級経営のノウハウなりを教えてきた。力をもったベテラン教員の人数も多かったし、時間の余裕もあった。しかし、これからは…。

3 授業力アップを目指す校内研修

 「黒板はなぜ上から下に消すのか」「どうして『全員起立。1回読んだら座りましょう』より『1回読んだら座りましょう。全員起立』の方がよいのか」「何十種類もの音読のさせ方にはどんなものがあるのか」など、先輩教員から伝承されてきた教育技術を、明日を担う新人教員に継承していく、これには校内研修を変えていかなければならない。崇高な理念ばかりを追い求めるのではなく、教員の授業力アップをねらった地に足のついた校内研修も必要であろう。
 そういった校内研修を実践していくためにはいくつかの方法が考えられる。校長のトップダウンもその1つであろう。一般の教員からの声も大切である。しかし、一番奮起しなければいけないのは研修主任である。その強いリーダーシップと斬新なアイデアが、地に足のついた研修への転換には必要になってくるであろう。
 かくいう私も勤務校では研修主任を務めている。あがいてはいるが、こういった地に足のついた校内研修はまだ行うことができていない。流行、体裁、見栄、非常識な常識などの抵抗勢力に負け続けている自分の弱さのせいであろう。この研修主任の憂鬱を詠ったパロディを紹介する。

くさくら(夏目漱石『草枕』のパロディ)
 
 研修計画を立てながら、こう考えた。
 智に働けば角が立つ。(「学習指導要領がこうだから」「今の教育の流れが」などといってもみんなシラけてしまうよね)
 情に棹させば流される。(研修する時間なんてないよね。他にすることいっぱいあるよね。でもそれを汲んであげていたら十分な校内研修はできません)
 意地を通せば窮屈だ。(「これがやりたい」「こうやっていくんだ」と研修主任が熱くなるほど、みんなはついてこないね)
 兎角に研修主任はやりにくい。(うんうん)

 「研修」とは「研究」と「修養」の両面から成る(教育公務員特例法第21条)。研究とは児童対象である。いかに児童の基礎学力や活用力を上げていくか、そのためのよい方策はないかを探るものである。「修養」とは対象が教師自身である。いかに自分の教育技術を上げていくかである。
 今、校内研修が児童対象の研究ばかりである。研究も修養も含んだ「校内研修」がこれから求められるだろう。
 現在、新規採用3年目までの教員のスキルアップ研修を校内研修とは別枠で行っている。来年度は「若手もベテランもいっしょになった全教員の授業力アップ」をねらった研修計画を構想中である。成果が見られればHPなどで紹介していきたい。
 経験やスキルの少ない若手教員が増えると、学校全体の教育力が低下していく。その教育的課題を解決できるのは研修主任なのである。
 がんばりましょう、全国の研修主任!

三井 竜彦みつい たつひこ

山口県下関市立豊浦小学校教諭

 1965年山口県山口市生まれ。福岡教育大学教育学部卒業。下関市で教員を続けながら、山口大学大学院国語科課程を修了。研究テーマは「文学教材における解釈視点の研究」。
HP
 

【主な著書(共著書)】『教科書教材の言葉を「深読みドリル」辞典』(共著、2013年、明治図書)、『文学・説明文の授業展開全単元』((共著、学事出版)

 

コメントの一覧
3件あります。
    • 1
    • 物理教諭
    • 2014/2/21 11:13:29
    校内研修を考えるのは本当に大変。
    所属校の現状を分析し,到達目標を設定し,スモールステップの研修課題を用意し…校内研修に求められることは児童・生徒の実状と教員側の力量に大きく依存するので,書籍や文献で理想の研修が探せるわけではない。研修担当の負担は横から見ている以上に大きいものです。
    研修では,教員一人ひとりが課題意識を持って問題解決の手段として研修の場を活用することが大切だと考えています。いくら研究主任が神経をすり減らしても,その必要性が伝わらなければ十分な効果は上がりません。そこにこそ,研究主任以上に,校長のリーダーシップが求められると思うのですが,本校は…なかなか難しいところです。
    • 2
    • 三井竜彦
    • 2014/2/23 7:56:37
     物理教諭さんの意見に、どっぷり賛成です。
     生徒指導は即効性も求められ、成果も見えやすい外科治療。それに対して研修は問題点もわかりにくく、成果も見えにくい内科治療。成果が早急に見えない分、教員のモチベーションも上がりません。そのうえ管理職が研修に後ろ向きだと、本当に大変です。(幸い本校はそんなことはないですが)
     今の校内研修の状態は、A やる気を持って成果が見えやすいように工夫されている(10%) B 惰性でやっている(90%)って感じじゃないでしょうか。
     そこで提案。Bのような学校、思い切って研修をやめちゃいましょう。それで反対する教員は、管理職以外いないはずです。それで2〜3年たったら、Aの学校からの転勤者とか、やる気がある教員から「Bを見習おうぜ!」といってまた新しい研修が始まるのではないでしょうか。(その位の、教員の向上心は信じられます。)全国の学校をBにするには、この方法が最良だ思います。
     新しいことを作るには、古いことを壊さなければできませんよね。
     
    • 3
    • 通りすがり
    • 2014/2/26 9:33:23
    上意下達で研修を行えるのが理想的かもしれないが、
    相手が教員の場合は教育観が多様なためなかなか難しいように思います。

    そこで、現在の自分の授業(あるいは自校の教育)における課題点を集約するところからスタートする研修を組み立ててみてはどうでしょうか。
    一人ひとりの教員が自分の実践を振り返る機会にもなり、
    課題を共有することができればその改善策も自然と共有されていくように思います。

    うまく課題点の共有ができれば、
    その課題点に焦点を合わせた研究・研修を行うことでモチベーションを高く保つことができます。

    また、先進的な取り組みをしている学校を見学する職員旅行を企画するなど、
    いろんな方法が考えられると思いますが、
    研修担当者の負担増は免れないのがやはりネックになってしまいますね。
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